親や親族が亡くなり、不動産を相続することになったものの、「何から手をつければいいのかわからない」「売っていいのか、そのまま持っていた方がいいのか判断がつかない」と悩んでいる方は少なくありません。
相続は誰にとっても頻繁に経験することではないため、不動産や税金の専門知識がないまま突然対応を迫られるケースがほとんどです。
この記事では、相続した不動産についてよくある5つの悩みを整理しながら、「売る・貸す・持つ」の選び方、売却の流れ、かかる税金、利用できる控除制度までを、専門知識がない方にもわかるように順を追って解説します。
結論から言うと、大切なのは「そのまま放置しないこと」と「自分たちにどんな選択肢があるかを知ること」の2点です。
まずは全体像をつかむところから始めましょう。
📋 目次
1.相続した不動産、まず何をすればいい?
1-1.相続した不動産を放置すると何が起きる?
相続した不動産は、実際に住んでいなくても、あるいは活用する予定がなくても、所有者として管理する責任が発生します。
誰も住んでいない家であっても固定資産税・都市計画税は毎年課税されますし、空き家の状態で放置すると、建物の老朽化や倒壊のリスク、庭の雑草や害虫の発生、不法侵入や不法投棄、近隣とのトラブルなど、さまざまな問題につながりかねません。

ポイント
2024年4月1日から相続登記が法律上の義務になっています。
「そのうち考えよう」と放置すること自体にリスクが伴う点は、後ほど4章で詳しく解説します。
1-2.最初に確認したい4つのこと
具体的な行動を起こす前に、まずは次の4点を確認しておくと、その後の判断がスムーズになります。
| 確認すること | 具体的な内容 |
| 相続人 | 誰が相続人にあたるのか、 法定相続人は何人いるのかを確認する |
| 名義 | 不動産の名義が誰になっているか (亡くなった方の名義のままのケースも多い) |
| 不動産の状態 | 戸建て・マンション・土地・空き家など、 現況はどうなっているか |
| 残債・権利関係 | 住宅ローンや抵当権などが残っていないか |
1-3.相続した不動産にはどんな選択肢がある?
相続した不動産の使いみちは、大きく分けて次の5つです。
「どれが正解」というものではなく、相続人の状況や不動産の価値、維持費などを踏まえて総合的に判断することが大切です。
| 選択肢 | 特徴 |
| 自分で住む | 生活拠点として活用する方法。 通勤や生活環境との相性が前提になる |
| 賃貸として活用する | 家賃収入が得られる一方、 修繕や管理の手間・空室リスクを伴う |
| 売却する | 現金化でき、以後の維持管理の負担がなくなる |
| しばらく保有する | 判断を先送りできるが、 その間も税金や管理コストは発生し続ける |
| 解体して土地として売却・活用する | 建物が古い場合の選択肢。 解体費用がかかる点に注意 |
2.相続した不動産でよくある5つの悩み
相続した不動産について、実際に多くの方が抱える悩みを5つに整理しました。
自分の状況に近いものから読み進めてみてください。
悩み① 自分では使わないけれど、売っていいの?
相続人が1人であれば、その方の判断で売却を進めやすいのですが、相続人が複数いる場合は、まず遺産分割協議によって「誰がこの不動産を取得するのか」を確定させる必要があります。
共有名義のまま売却しようとすると、共有者全員の同意が必要になり、後になって話がまとまらなくなるケースも少なくありません。
売却を検討している場合は、早めに相続人同士で方向性をすり合わせておくことをおすすめします。
流れのイメージ
相続発生 → 相続人の確認 → 遺産分割協議 → 相続登記(名義変更) → 売却・活用の検討
悩み② 相続した実家に誰も住まない。どうすればいい?
「実家を相続したものの、家族は全員別のところに生活基盤があり、誰も住む予定がない」というケースは非常によくあります。
この場合、次の4つの選択肢を比較して検討するとよいでしょう。
| 選択肢 | メリット | 注意点 |
| 自分で住む | 家賃が不要になる | 通勤・生活環境の変化を伴う |
| 賃貸に出す | 家賃収入が期待できる | 修繕・管理の手間や 空室リスクがある |
| 売却する | 維持管理の負担をなくせる | 売却価格や税金の 事前確認が必要 |
| 保有し続ける | 将来的な選択肢を残せる | 固定資産税・ 管理コストがかかり続ける |

「誰も住まない実家」は判断を先送りにしがちですが、時間が経つほど建物の劣化や近隣トラブルのリスクが高まるため、早めに方向性を決めておくことが重要です。
悩み③ 相続した不動産には必ず税金がかかる?
結論から言うと、不動産を相続したからといって、必ず相続税がかかるわけではありません。
相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という基礎控除があります。
たとえば法定相続人が3人であれば、基礎控除額は3,000万円+600万円×3人=4,800万円です。
相続財産の課税価格の合計額がこの基礎控除額以下であれば、原則として相続税はかかりません。
なお、基礎控除額を超える場合の税額は、単純に「超えた部分×税率」で計算されるわけではありません。
相続財産の総額から基礎控除を差し引いた金額を、いったん法定相続分どおりに取得したものと仮定して各相続人の取得金額を算出し、それぞれに税率を適用して合計した「相続税の総額」を、実際の遺産の取得割合に応じて各相続人に按分するという流れで計算します。
仕組みがやや複雑なため、基礎控除を超えそうな場合は早めに税理士へ相談することをおすすめします。
なお、相続税の計算は不動産だけで完結するものではなく、預貯金や有価証券などのプラスの財産と、借入金などのマイナスの財産(債務)も合わせて判断します。
相続税以外にも、不動産の名義変更にともなう登録免許税や、毎年の固定資産税・都市計画税、売却した場合の譲渡所得税・住民税など、さまざまな税金・費用が関係してくる点は押さえておきましょう(詳しくは5章で解説します)。
悩み④ 空き家のまま放置しても大丈夫?
結論としては、空き家をそのまま放置することはおすすめできません。
放置には主に次のようなリスクがあります。
- 建物の老朽化・倒壊のリスク
- 雑草や害虫の発生
- 不法侵入・不法投棄
- 台風や地震による建物・外壁などの損傷
- 近隣とのトラブル
- 定期的な見回りにかかる交通費・時間の負担
注意
「空き家だから固定資産税が安くなる」とは限りません。
適切な管理がされていない空き家は「管理不全空家」や「特定空家」に該当する場合がありますが、該当しただけで直ちに住宅用地の特例が解除されるわけではありません。
市区町村から改善の勧告を受けると、住宅用地の特例(固定資産税の軽減措置)が解除され、かえって税額が上がる可能性があります。
悩み⑤ 兄弟で相続したけれど、意見がまとまらない
「長男は売却したいが、次男は保有したい」
「長女は自分では使わないが、誰が管理するかが決まらない」
といったケースは、相続不動産のトラブルの中でも特によく見られるものです。
不動産は現金と違って簡単に分けられる資産ではないため、相続人同士で早めに話し合うことが何より重要です。
主な選択肢としては、次の3つが挙げられます。
- 誰か1人が不動産を取得し、他の相続人には現金(代償金)を支払う「代償分割」
- 不動産を売却して現金化し、相続分に応じて分ける「換価分割」
- 複数の相続人で共有名義のまま持ち続ける

相続した不動産をどう分ける?
① 1人が取得する → 他の相続人へ代償金を支払う(代償分割)
② 売却する → 売却代金を相続人で分配する(換価分割)
③ 共有する → 共有者全員で保有し続ける
共有名義を選ぶ場合は、将来の売却や管理、さらに次の世代への相続まで見据えて判断することが大切です。
共有者が増えるほど、将来の意思決定はより難しくなる傾向があります。
3.相続した不動産を「売る・貸す・持つ」どれがいい?
3-1.3つの選択肢を比較
| 売る | 貸す | 持つ | |
| 現金化 | ◎ | △ | × |
| 維持管理の負担 | ◎(売却後の所有・管理負担をなくせる) | △(要管理) | △(要管理) |
| 継続的な収入 | × | ○ | × |
| 将来の自由な利用 | × | △ | ◎ |
| 手間・労力 | 比較的少ない | 多い | 状況による |

※実際のメリット・デメリットは、不動産の種類(戸建て・マンション・土地)や立地、築年数、状態によって異なります。
3-2.こんな人は売却を検討
- 遠方に住んでいて管理が難しい
- 今後その家に住む予定がない
- すでに空き家になっている
- 維持管理の負担が大きいと感じている
- 固定資産税などの継続的なコストが気になる
- 相続人が複数いて、公平に現金化したい
4.相続した不動産を売却する場合の流れ
実際に売却を進める場合、大まかに次のステップで進んでいきます。
相続の手続きは、遺言書の有無によってその後の進め方が変わるため、まずは遺言書があるかどうかの確認から始めます。
| STEP | 内容 |
| STEP0 | 遺言書の有無を確認する(自宅の保管状況のほか、法務局の自筆証書遺言書保管制度や公証役場の遺言検索システムでも確認できる) |
| STEP1 | 相続人・遺産の状況を確認する |
| STEP2 | 遺産分割協議を行い、誰がどの財産を相続するかを決める |
| STEP3 | 相続登記を行う(名義を亡くなった方から相続人へ変更する) |
| STEP4 | 不動産会社に査定を依頼する |
| STEP5 | 売却価格・売却方法(仲介・買取など)を検討する |
| STEP6 | 不動産会社と媒介契約を結び、販売活動を開始する |
| STEP7 | 買主と売買契約を締結する |
| STEP8 | 決済・引き渡しを行う |
【重要】相続登記の義務化について正しく理解する
原則として、相続した不動産を売却する前には、名義を亡くなった方から相続人へ変更する「相続登記」を行う必要があります。
これまで相続登記の申請は任意とされてきましたが、2024年4月1日の不動産登記法改正により、法律上の義務となりました。
相続登記義務化のポイント
不動産を相続したことを知った日から3年以内に、相続登記の申請をすることが義務付けられています。
正当な理由がないまま期限内に申請しないと、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
2024年4月1日より前に発生していた相続も対象です。
この場合の申請期限は、2027年3月31日と「不動産の取得を知った日から3年」のいずれか遅い日までとされています。
遺産分割の話し合いがすぐにまとまらない場合の暫定的な対応として「相続人申告登記」という簡易な制度も用意されています。
これは遺産分割協議がまとまっていない段階でも、相続登記の申請義務そのものを一旦履行できるようにするための制度です。
ただし正式な相続登記の代わりにはならず、遺産分割が成立した後、別途3年以内に本来の相続登記を行う必要があります。
「売却したいのに、名義が亡くなった親のままだった」というケースは珍しくありません。
売却を検討する際は、まず登記の状況を確認するところから始めましょう。
なお、制度の詳細や個別の期限については、法務省の相続登記の申請義務化に関する特設ページなど、最新の公的情報もあわせてご確認ください。
5.相続した不動産を売るときにかかる費用・税金
不動産を売却する際は、主に次のような費用・税金が発生します。
| 項目 | 内容 |
| 仲介手数料 | 不動産会社に売却の仲介を依頼した場合に支払う成功報酬 |
| 登録免許税 | 相続登記など、名義変更の際に発生する税金 |
| 印紙税 | 売買契約書を作成する際に必要な税金 |
| 譲渡所得税・住民税 | 売却によって利益(譲渡所得)が出た場合に課税される |
| 測量費 | 土地の境界が確定していない場合などに必要になることがある |
| 解体費 | 建物を取り壊してから土地として売却する場合に発生する |
「譲渡所得」の考え方に注意
売却時の税金を考えるうえで、特に誤解されやすいのが「譲渡所得」の計算方法です。
「売却価格から購入価格を引いた金額が、そのまま利益になる」と考えてしまう方が多いのですが、これは正確ではありません。
譲渡所得は、売却価格から、購入時の代金や仲介手数料などをもとにした「取得費」と、売却時にかかった「譲渡費用」を差し引いて計算します。
相続した不動産の取得費はどうなる?
相続した不動産を売却する場合、取得費は新たに計算し直すのではなく、被相続人(亡くなった方)がその不動産を取得したときの購入代金や取得にかかった費用をそのまま引き継ぎます。
つまり、被相続人が何十年も前に購入した金額をもとに譲渡所得を計算することになります。
そのため、購入時期がかなり昔であったり、当時の契約書が残っておらず取得費が正確にわからなかったりするケースも多くあります。
その場合は、売却価格の5%を取得費とみなす「概算取得費」で計算する方法もありますが、実際の取得費より少なく見積もられ、税負担が大きくなる可能性もあるため、契約書や領収書などの資料が残っていないか、早めに確認しておくことをおすすめします。
具体的な税額の計算は、税理士に相談すると安心です。
6.相続した空き家を売る場合に知っておきたい特例
「被相続人の居住用財産(空き家)の3,000万円特別控除」とは
相続した空き家を売却する場合、一定の要件を満たせば、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があります。
正式名称は「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」です。
空き家の増加を抑制する目的で設けられた制度で、要件を満たせば税負担を大きく軽減できる可能性があります。
よくある質問
Q.相続した実家を売れば、必ず3,000万円が控除される?
A.いいえ。この特例を使うには、建物の建築時期や売却時期、利用状況、売却方法など、複数の要件をすべて満たす必要があります。
主な要件を整理すると、次のとおりです(2026年8月時点の制度内容にもとづきます)。
| 項目 | 内容 |
| 制度の対象期間 | 2016年(平成28年)4月1日から2027年(令和9年)12月31日までの売却が対象 |
| 建物の建築時期 | 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築されたもの(旧耐震基準の建物) |
| 居住状況 | 被相続人が亡くなる直前まで一人で住んでいたこと(老人ホーム等への入居は一定の要件を満たせば対象になる場合がある) |
| 空き家期間 | 相続してから売却するまでの間、ずっと空き家であったこと(賃貸や居住に使うと対象外) |
| 建物の状態 | 耐震基準を満たすリフォームをするか、建物を解体して土地のみを売却すること(2024年1月1日以降は、売却後翌年2月15日までに耐震改修・解体を行った場合も対象) |
| 控除額 | 最大3,000万円。ただし2024年1月1日以降の譲渡で、対象の家屋・敷地を取得した相続人が3人以上の場合は、1人あたり最大2,000万円 |
注意
上記は主な要件の一部です。
実際には、譲渡対価の額(売却価格)が1億円以下であること、家屋が区分所有建物登記されたものでないこと、相続人の取得状況、確定申告での必要書類など、ほかにも細かな要件が定められています。
この特例は要件が細かく、建物の区分所有登記の有無や、被相続人の居住状況によって適用可否が変わるケースもあります。
「うちの実家は対象になるのか」を正確に判断するには、税理士への相談や、国税庁の最新情報の確認をおすすめします。
7.相続した不動産で「やってはいけないこと」
| やってはいけないこと | 理由 |
| ①何年も放置する | 建物の劣化や管理負担の増大につながります。 |
| ②相続人同士で話し合わずに売却を進める | 後になって「聞いていない」といったトラブルの原因になりがちです。 |
| ③税金を確認せずに売却する | 売却後に想定外の税負担が発生することがあります。 |
| ④不動産の価値を調べずに判断する | 「古いから価値がない」と決めつけず、まずは査定で確認しましょう。 |
| ⑤将来のことを考えずに共有名義にする | 将来の売却や管理で、相続人同士の意見調整が難しくなる可能性があります。 |

8.相続した不動産の価値を知るには?
不動産会社に査定を依頼すると、周辺の成約事例、土地・建物の状態、立地、土地の形状、建築条件、築年数、市場の需要などをもとに、おおよその売却価格の目安を確認できます。
査定には、周辺の取引事例などから概算価格を算出する「机上査定」と、実際に現地を確認したうえで詳細な価格を算出する「訪問査定」があります。
ポイント
「売るかどうかまだ決めていない」という段階でも、まずは査定を受けて不動産の価値を知っておくという方法があります。
今後の選択肢を考えるうえでの判断材料になります。
9.相続した不動産について専門家に相談したほうがいいケース
| 相談先 | 向いているケース |
| 不動産会社 | 売却するか迷っている/実家の価格を知りたい/遠方の不動産を売却したい/空き家をどうするか悩んでいる/兄弟で不動産を相続した |
| 税理士 | 相続税の計算をしたい/3,000万円特別控除などの適用可否を確認したい |
| 司法書士 | 相続登記や名義変更の手続きを進めたい |
| 弁護士 | 遺産分割で相続人同士の意見がまとまらない |
不動産会社だけですべての税務・法律判断を行うことはできません。
状況に応じて税理士や司法書士、弁護士などの専門家と連携しながら進めていく姿勢が、結果的にスムーズな解決につながります。
10.まとめ|相続した不動産は「放置せず、まず状況を整理」
- 相続した不動産は、まず相続人・名義・不動産の状態を確認する
- 「住む・貸す・売る・持つ」などの選択肢を比較して検討する
- 空き家の場合は、管理や税金の負担にも注意する
- 相続人が複数いる場合は、早めに話し合いの場を持つ
- 売却する場合は、相続登記や税金(特に3,000万円特別控除の要件)を確認する
- 判断に迷ったら、不動産会社に査定を依頼して「不動産の価値」を把握することから始めてもよい
相続した不動産を売るかどうか、まだ決めていない方もご相談ください
「売ったらいくらになるのか」「持ち続けた場合にどのような負担があるのか」など、
状況を整理しながら、今後の選択肢を一緒に検討していきます。